初めて働いた職場には9人の同期がいた。
年齢も性別も出身地も様々だったが、
たった1つ「同期である」という共通点だけがそれぞれの繋がりを強くしているような、
そんな関係だった。
僕らは仕事帰りにたまに集まってはそれぞれの近況を話し、誰かが結婚したといってはお祝いをし、
たまには誰かの家に行ってだらだらと話したりもした。
同期の中の一人に「アオキさん」という男性がいた。
美術学校で油絵を専攻していた彼は、確か年齢は僕よりも5つか6つ年上で、
よく喋る猫好きの気のいいやつだった。
確か一緒に働いていた期間は4年間くらいだったと思う。
その間にアオキさんとはよく話をした。
僕の家に来たり、彼の家に行ったり、
似顔絵をプレゼントしてもらったりなんかもした。
奄美大島の南に加計呂麻島と書いて「かけろまじま」と読む珍しい名前の島がある。
青く透き通った海に囲まれ、陸地のほとんどが深い森に覆われた中に、
人口1300人ほどが島の伝統を継承しながら静かに暮らしている美しい島だ。
僕は世界を旅するため、彼はその島に移住するために、二人はそれぞれ仕事を辞めた。
それから数年後、「いもーれ奄美へ」と描かれたポスターに出迎えられて、
僕は奄美空港へ降り立った。
一緒に勤めていたときには考えられないようなボサボサの髪をしたアオキさんは、
一緒に勤めていたときよりも穏やかな笑顔を浮かべていた。
加計呂麻島は、奄美空港からバスを途中で乗り換えて2時間、
奄美大島最南端の古仁屋港からフェリーで20分渡ったところにある島だ。
さらに彼の住んでいる集落は到着した港から車で15分ほどのところにあり、
9世帯14人が静かに暮らしている場所だった。
美しい青色の海まで徒歩30秒、目前には深い森と山があり、青と緑に囲まれた、
まるでタイムスリップしたかのような気持ちにさせられるのどかな集落だ。
彼が移住した当初に住んでいた古い家は、
過去数十年で最大級という大型台風の影響で屋根が吹っ飛ぶという事件があったり、
ガスもシャワーもない生活を選んでいるので、いちいち薪で火を炊いて調理をしたりお湯をためたり、
ガリガリの文化系の彼が、集落の伝統行事で毎年一度豊年を祝うために
回しをつけて相撲をとったりしながらアオキさんらしく生きている姿を感じられて本当によかった。
彼は今日も青い空の下で大好きな猫に話しかけながら絵を描いているんだろう。
そうだといいなと思う。
