ストックカンリ登山3日目~4980mから6123m~

3日目。
気がついたら寝ていたようで23時30分頃に起床。
ガイドのソンナムが寝坊をして深夜1時15分に出発。
 
月の光で明るく寒さもあまり感じない。
真っ暗な中2時間歩き、タルチョという五色の祈祷旗がなびいた丘に到着。
アモーは咳をしていて苦しそう。
 
装備は耳を隠した帽子が必須ということで手ぬぐいを頭に巻く。そのうえにヘッドライト。
上半身はインナーにTシャツ、メリノウールの長袖を着て、
ライトダウン、ネッグウォーマーをつけて、ウィンドブレーカーを着用。
下半身はスポーツタイツにパンツ、ハーフパンツにロングパンツ。
足元はメリノウールのロングソックスの上にショートソックス。
持ってきた全ての装備を着用した。
 
 
歩き始めて2時間半が経過したころ、クレパス帯に到着。
 
川の上に厚い氷がはってある。ピッケルを使って固まっている場所を確認しながら慎重に進む。
ツルツルした場所はおもしろいように滑り、思いがけずに転倒した。
立とうとしたがまるでコントのように何度も滑り、なかなか立ち上がることができない。
 
なんとか渡りきったときには息があがっていた。
 
 
クレパス帯を抜けると雪渓の登り。
静かな場所に雪を踏むザっザっという音が響く。アモーは咳がひどくてスピードが上がらず。
ソンナムは帰りのことも考えてもう少しスピードをあげたい。
 
朝8時までには登頂しないと帰りにクレパスの氷が割れて危険だと言っている。
アモーとソンナムがヒンディー語で話すのだが、
リタイアを意識した話をしていることは伝わってくる。
 
ここまで3時間。
 
アモーはここでリタイアを決めた。
 
 

 
 
ここからの登りはゲーターとアイゼンを装着。岩と雪山の急登を登り続ける。
頂上はまだ見えず。
 
どうしようもなく息が上がり、全身に疲労を感じる。
大きな疲労感を感じ始めた頃に何気なく「あとどれくらい?」と聞くと「2時間だ」と言われた。
その時リタイアという選択を現実のものとして考え始めた。
 
「どうする?」と聞かれてしばらく悩んだが「とりあえず行けるところまで行く」と答える。
 
稜線までたどり着くとそこは5900メートル地点。風が容赦なく吹いている。
寒すぎる。
 
エネルギーが切れたことを実感し水を飲もうと口をつけると、
ボトルの飲み口が凍っていて水が出てこない。
 
チョコバーはカチカチに固まっていて食べられない。
体を動かすことがない休憩時間は体温が下がる。
 
自分が登ってきた場所を座り込んで眺めて見下ろしてみる。
氷の世界があまりに美しくて写真を撮ろうと思うが、写真を撮るという作業ひとつが億劫に感じる。
 
疲労困憊の中で手袋をしたままカバンからカメラを取り出すことがどんなに大変な作業と感じるのか、
ここに来ないとわからなかった。
 
 
ルートは特別難しくないが、とにかく息が苦しい。
どうにか鼻から息をしようと努めるが、なかなか余裕がでずに思わず肩で口から息をしてしまう。
 
1500メートル走でラスト1周を走るという状況を5時間くらいしているような感覚で、
呼吸を整えようとしても整わない。
 
おまけに休憩しようと足を止めると容赦ない風が体温を下げていく。
信じられない世界。
 
ふと太陽が昇ってきて明るくなってきた。途端に照り返しが強く、顔が痛い。
サングラスをつける。とにかく一歩ずつ前へ進む。
あまりの疲労で立ち止まり、前方を見上げると初めてタルチョがなびく山頂が見えた。
 
 
あと30分。
 

 
 
どうにかこうにかタルチョの前に着くと、
そこには頂上からしか見ることができない山の向こう側が見えた。
目の前に広がる赤茶色の世界、振り返るとこれまで歩いてきた雪の世界。
二つの異なる世界が広がっていた。
 
8時ちょうどに登頂。
 
行けるところまで行こうと思って一歩一歩進んだ結果、
こうやって山頂に立てたことが素直にうれしかった。
 

 
これから下山かと思うと疲労感からぞっとしたが、それでも早く降りたい。
登りよりは順調に進むが息の切れ方は変わらず、とにかく苦しい。
 
傾斜が急な岩場を抜け、雪渓地帯に入ったところでいよいよ力が尽きてしまいへたり込んだ。
全く動けない。
 
その場で少しだけ柔らかくなったチョコと、ガソリン臭いシャリシャリした水を飲み五分間ほど休む。
意を決して立ち上がり、100メートルほど先で待つソンナムの場所へゆっくりと歩いた。
 
 
危険地帯を抜け出した。
ここまで来ると、気温の上昇と高度の低下から、
一気に恐怖感が抜けて、帰ることのできる安堵感が込み上げてくる。
 
呼吸の安定と同時に登りきった幸福感がジワジワと込み上げてきて、
大きな達成感を得られるようになる。
 
再びベースキャンプが見えたとき、ソンナムにお礼を伝え、トイレへ直行した。
たまらない満足感を感じながら、今度はどこの山へ行こうかと考える。
 

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